ARIAに見るマンガの流れ方

以前の書き直し。
マンガという物は上から下に、右から左に読む物なんで、時間も右から左に流れる。その影響で
1・左向きの人物は前進。右向きなら停止・後退。
2・左向きは陽・未来を表す。右向きは陰・過去・自己の内面を表す。
この右向き・左向きにはいろんな意味を持たせることが出来るし、「あしたのジョーが左向きで燃え尽きているのは未来がある=生きているからだ」という話も有るくらい、読者の心象に影響を与えることも出来る。
で、最近買った「ARIA」がこの法則どおりに組んであったんで、ちょっと紹介してみる。(ネタバレあり)
テキストは

ARIA 8 (BLADE COMICS)

ARIA 8 (BLADE COMICS)

Navigation36 ゴンドラ
今まで使ってきたゴンドラが観光船として古くなったので、新しい船に変わることになった。引退の日、アカリは古いゴンドラで街中をめぐって、思い出を写真に残すことにした。

出発の朝(画像1)当然船は左へ。見送るアリシアさんも左向き。
次のページで右向きなのはアリシアもまた船との別れを惜しんでいるからか。下の青丸2コマは写真のフレームなので当然画面は停止。だから船は右向き、船尾にいるアカリは左にいる。
街中でスナップを撮る(画像2).青丸は全て写真のフレーム。停止画だから船は右向き。動いているコマは左向き。鳥居をバックにした写真も目線は下から上へと逆送する。
広いところ(画像3)。ここでも写真を撮っているが、フレームではないので左に流れる。
そして終点(画像4)。船は右向きで、旅が終わったことを印象つける。
こんな感じで、見ているほうの呼吸を合わせるように描かれている。最後に後日談として、新しいゴンドラに乗ったアカリが古いゴンドラとすれ違うシーン(画像5)では、過去を見送るアカリが右向き、お別れが済むと左向きになっていて、台詞が無くても心象が見える形になっている。


続いて対照的なもう一つ。

Navigation38 墓地の島
「サン・マルコ広場で、喪服の女性に墓地の島まで乗せて欲しいと言われても、応えてはいけない。」怪談を聞いた夜、アカリは広場で一人の女性客に出会う。

画像6で女性を船に乗せると、ほとんど全てのコマが右向き、そしてパース付きになっている。奥行きがあるのはスピードが遅いこと、右向きになっているのは、マンガの流れと逆送させることで読者に不安感を与えている、と思う。この逆送は次のページ(画像7)の見開きで更に不安を掻き立てる(この作者は上半分の見開きを上手に多用する。)。矢印の先は墓地の入り口。この下でようやく左向きのコマが2・3現れ、アカリ(と読者)に安堵感を与える。
そして次のページで<画像8)<画像9)で読者の安堵はひっくり返される。ここは今までのパースで作ったタメと「安心させてから脅かす」怪談の基本が一緒になって、直接的な怖いシーンは描かれていないのに読者を恐怖のどん底に叩き込む。


とまあ、ここまでやるか?と思うほど絵の左右に注意して作られているが、アクションが少ないARIAが非常に生き生きとして見えるのは、キャラの魅力やヴェネツィアの風景ばかりではなく、読者の心理を上手にコントロールしているからかも。



おまけ。以前コミックブレイドの入選作品「LENGA」(佐藤夕子)が読みづらいと書いたが、「視線の流れ」を無視してるからわからなくなっている所が多々ある。
追い詰められた二人が崖を飛び降りるシーンでは、「1」の崖と谷底、対岸の位置関係がわからず視線が定まらない。その崖を飛び降りた少年は背後を見ているが、さっきと橋の位置が違う上、次のページでどこにたどり着いたのか、どこの何が光っていたのかわからなくなってしまう。
これ、逆さまに描けば流れの通りに行くのだが。 或いは無茶な見開きを避けて1ページに収めるか。
尤も、その次のページでは、リアクションもかすり傷もなく寝ていたりして、今度はメクリとヒキの問題が出てくるのだが。